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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)1525号 判決

大阪市東成区大今里南二丁目一五番一八号

控訴人(亡大内芳夫承継人)

大内朗

前同所南三丁目一三番三号

控訴人(同)

渡邉薫

前同所南二丁目八番一七号-四〇六

控訴人(同)

内藤ひとみ

前同所南二丁目一五番一八号

控訴人(同)

大内博

右四名訴訟代理人弁護士

山上和則

右輔佐人弁理士

小谷照海

福岡県粕屋郡須恵町大字上須恵字桜原一四九五番地四

被控訴人

福友産業株式会社

右代表者代表取締役

大西俊一

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對崎俊一

増岡研介

右輔佐人弁理士

早川政名

主文

一  原判決中一審原告の金員請求を棄却した部分(当審での請求拡張分を含む)を次の通り変更する。

二  被控訴人は、控訴人ら各自に対し、それぞれ金一二三万七五〇〇円及び内金七五万円については昭和六〇年八月四日から、内金四八万七五〇〇円については平成三年一〇月九日から、各支払済みに至るまで年五分の割合の金員を支払へ。

三  控訴人らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを四分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人らの負担とする。

五  第二項は、仮に執行することができる。

事実

〔当事者らの申立〕

一  控訴人ら

1  原判決中、一審原告大内芳夫の被控訴人に対する金員請求を棄却した部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人らに対し、金二六四〇万円及び内金三〇〇万円(原審請求分)については昭和六〇年八月四日から、内金七五〇万円(当審第一回請求拡張分)については平成三年一〇月九日から、内金一五九〇万円(当審第二回請求拡張分)については平成五年一月一四日から、各支払済みに至るまで年五分の割合の金員を支払へ。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人らの控訴(当審における拡張請求を含む)を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

〔事案の概要〕

一  一審原告亡大内芳夫(平成二年二月四日死亡)は、原判決第三の一原告の権利欄(同二枚目裏二行目から三枚目表一一行目まで)記載の特許権(以下、これを「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という)を有していた(当事者間に争いがない)。

二  一審原告は、被控訴人が、遅くとも昭和六〇年三月頃から本訴提起した同年七月末日までの間、業として、原判決別紙イ号方法目録記載の方法(以下これを「訂正前イ号方法」という)により製造された三角袋を少なくとも合計二〇〇〇万円相当量製造・販売して、少なくとも三〇〇万円の利益を得たが、訂正前イ号方法は、本件発明に属すると主張して、被控訴人に対し、訂正前イ号方法を使用する三角袋の製造・譲渡の差止め及び同方法により製造された三角袋の廃棄並びに金三〇〇万円の損害賠償請求(以上原審請求)を求めた。

なお右損害賠償請求については、当時の被控訴人代表者竹山雅美をも共同被告として訴求(不真正連帯債務)していたが、当審において、その訴を取り下げた(同被告同意)。

三  被控訴人は、右一審原告の主張に対し、被控訴人が製造・販売した三角袋は訂正前イ号方法によるものではなく、原判決別紙ロ号及びハ号各方法目録記載の方法(以下、これらを各々「ロ号方法」「ハ号方法」と、それぞれの製品を各々「ロ号物件」「ハ号物件」と呼称する。なお、原判決ハ号方法目録の第五工程中「第10図」とあるのは「第5図」の誤記であるから訂正する。)であり、且つその製造期間は、製造開始(昭和五九年)当初はハ号物件であったが、昭和六〇年一月以降はロ号物件のみを製造・販売しているものであると主張した。

四  原審は、右被控訴人の主張を容れ、被控訴人による訂正前イ号方法実施の事実は認め難いと判断して、一審原告の請求を全部棄却した。控訴人らは、これを不服として控訴し(一審原告は、原審継続中に死亡していたため、相続人である控訴人らが承継して)、その差止等請求の目的物を訂正前イ号方法及びその製品から本判決添付別紙イ号方法目録記載の方法(以下、これを「イ号方法」という)及びこれにより製造された製品(以下、これを「イ号物件」という)に変更したうえで、前記主張・請求を維持しつつ、仮に、被控訴人が実施し及び実施しているのが、ロ号・ハ号方法であるとしても、ロ号・ハ号方法とも、本件発明の技術的範囲に属する(均等方法)と主張して、原審請求に加え、ロ号・ハ号を使用する三角袋の製造・譲渡の差止め、ロ号・ハ号物件の廃棄の請求と、ロ号・ハ号方法の実施に基づく損害賠償乃至不当利得返還請求とを追加したが、特許権の存続期間満了日(平成五年三月二七日)を迎えたため、差止め及び廃棄の請求を全部取下げ(被控訴人同意)、被控訴人に対する前記損害賠償乃至不当利得返還請求を維持している。

五  被控訴人は、ロ号・ハ号方法が、本件発明方法と均等であることを争い、また、控訴人ら主張の損害額乃至不当利得の金額を争っている。

六  従って、当審争点は、次の通りに整理できる。

1  被控訴人がイ号物件を製造したか否か。

2  ロ号・ハ号方法(前項が肯定された場合はイ号も)は、本件発明の技術的範囲に属するか。

3  右の全部若しくは何れかが肯定される場合、控訴人らの損害賠償請求若しくは不当利得返還請求の成否乃至その額。

〔争点に対する当事者の主張〕

第一  争点1(被控訴人がイ号物件を製造したか否か)について

次に付加するほか、原判決七枚目表五行目から一〇枚目表一二行目(但し、同七枚目表九行目の「前記構成」を「別紙イ号方法目録第一工程(第1図)」と改める。)を引用する。

一  控訴人らの補足主張

1 原判決は、原審提出の被告物件中に、糊付条線が頂部端まで連続しないものや、頂部端で糊付条線が細めになっているものがあることを理由に、否定的結論に導いているが、連続しているものが大多数なのであるから、素直に、イ号方法の使用を認めるべきであり、控訴人らに、一方的に、立証の負担を課することは許されない。元々、被控訴人が、ダンボール箱に製品を詰めて出荷するとき、イ号物件とハ号物件を混在させていた可能性もあり、イ号物件が、たとえ百パーセントでないにしても、存在することに変わりはない。

2 被控訴人の「糊ならしべら」の主張は、原審第一七回口頭弁論期日になってようやく持ち出されたもので、その信憑性に疑問があるのみならず、「糊ならしべら」が、ハ号方法の、糊付工程で糊量を均一にして、糊付条線をならしていたものというが、それにしては、その証拠として援用される乙第四号証の一ないし三によっても、次のような多くの不合理さがあり、肯認することはできない。

(1) 針金の寸法が長きに過ぎ、かつその一端が固定されているのみであり、かつ、針金の先端は、連続紙を誘導するロールとロールの中間に配置され、その先端を支持する「受けロール」がない。連続紙は、高速で進行し、かつ機械振動もあり、針金先端はブレて、接触部の紙面の下側に支えがないため、針金が紙を強く押さえすぎるか、紙面から浮き上がって、針金先端と紙面とは常に均等な強さで接触できず、糊付の幅や厚みを調整することができない。

(2) 一般に、「糊ならしべら」は、〇.一~〇.三ミリの厚みが常識であって針金製のへらなどは論外であり、また、針金が逆の方向にセットされており、原紙が破れると思われる。

(3) 針がねの先端に、一旦糊が付くと、滞積して、糊の延ばしや、正確な糊幅、糊の厚みを得るための調整ができない。

3 このように見ると、仮にこの針金が、ハ号方法で使用されても、針金先端部が高速で進行する紙面の糊付部に接触したとき、糊が紙面の関係ない部分に付着することが常態となることが予想され、結局、イ号方法と何等変わらないことになる。けだし、イ号方法は、紙面の両端は連続線だからである。

思うに、元々被控訴人はイ号方法を実施していたところ、これを糊塗せんがため、ハ号方法に針金を「糊ならしべら」として使用したとして、連続線状の袋がほとんどである事実を説明しようとするが、この針金は、その先端部に段を付けた副尺の水平案内部を設け、この水平案内部を進行する原紙の両側に沿って内側にV字形に折りこんだガセット部分が上方に持ち上がり、開かないよう軽く押さえるためのもので、針がねの先端部と添付された糊線とは全く関係がない。

若し本当に、糊のはみ出しが心配ならば、何故下側原紙の両端だけの「糊ならし」を考え、〈省略〉形の糊付部の「糊ならし」を考えなかったのか、明らかに矛盾しており、糊のはみ出しは、糊の量や供給口の形状の工夫によって防ぎうるから、原紙両端にも「へら」を使用する必要性はないはずである。要するに、この針金は、現在被控訴人が実施していると主張するロ号方法における「ガセット」の乙条の襞の押さえと思われる。

二  被控訴人の反論

控訴人らの主張は、いずれも根拠のない憶測に基づくものであり、自ら提出した検証物の中に、イ号方法では生ずるはずのない糊付条線が現れていることが明白な証拠であり、出荷段階で、混在させる可能性などありえない。なお、被控訴人の「糊ならしべら」の詳細な説明が、原審第一七回口頭弁論期日になされたのは、同期日になされた被控訴人側の大西証人の尋問で、製造方法が詳しく証言されたことによるもので、なんら不自然・不合理なことはない。

第二  争点2(ロ号・ハ号方法は、本件発明の技術的範囲に属するか)について

一  控訴人ら

1 本件発明の構成要件及び作用効果は左のとおりである。

(構成要件の分説)

A 巻軸より解き出される紙、合成樹脂フイルム等二枚の移送原紙を用いる、以下の工程からなる三角袋の製造方法である。

B 二枚の原紙のうち幅広い下側原紙の中間に、その進行方法に対し、袋截断長に合わせて斜めに〈省略〉形の糊付条線を順次断続的に付して上側原紙と接続重合する。

C 下側原紙の両端部に沿って直線状に糊付条線を付す。

D 下側原紙を内側に曲折して上側原紙の両端部上に糊付接着する。

E 螺旋刃の回転により前記〈省略〉形糊付接着部の斜線部より中割して左右に二分する。

F さらにこれを進行方向に対し斜設した斜面カッターにより、〈省略〉形接着部の鈎形部に沿って間欠的に斜めに截断して一度に左右対称形の三角袋を二枚ずつ順次連続的に成形する。

(作用効果)

(1) ぶどうの包装等に用いられる左右対称形の三角袋を、一度に二枚ずつ連続的にかつ自動的に製造できるので、高能率で大量生産が可能となり、コストも著しく低下する。

(2) 原紙の紙幅と原紙の進行方向に対する糊付条線の角度、及び上下一対の螺旋刃による斜面中割りカッターの傾斜度をそれぞれ加減することにより、大小様々の三角袋や角度の異なる変形袋を道具を代えることなしに、同一装置で極めて容易に製造しうる。

(3) 出来上がりの袋は三角形状に構成されているので、ぶどう等の包装に際して紙袋に余分の空白ができず、確実にかつ安定の良いきれいな包装ができる。

2 ロ号・ハ号方法の各構成及び作用効果

(構成)

何れも、(a) 巻軸より解き出される紙、合成樹脂フイルム等二枚の移送原紙を用いる、以下それぞれの工程からなる三角袋の製造方法であり、ロ号方法は、

(b) 下側原紙の両側端部を折返して、ガセット部を形成する工程(ロ-1図〔原判決別紙ロ号方法目録第1図面をいう。以下同例〕参照)

(c) ガセット部が形成された下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程(ロ-2図)

(d) 糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程(ロ-3図)

(e) 接着部のaとa'との間に、三箇所の接続部を残して切れ目を入れる中割工程(ロ-4図)

(f) ロ-4図のb部分を切断する截断工程(ロ-5図)

ハ号方法は、

(b) 上側原紙より巾広の下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程(ハ-1図)

(c) 糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程(ハ-2図)

(d) 下側原紙の両側を折り返して上側原紙の両側に重ね合わせて接着する折り返し工程(ハ-3図)

(e) 接着部のaとa'との間に、三箇所の接続部を残して切れ目を入れる中割工程(ハ-5図)

から各成っている。

(作用効果)

何れにおいても、(1) 左右対称形の三角袋を一度に二枚ずつ連続的に製造できるので、高能率で大量生産ができ、コストが低減する、(2) 原紙の幅、下側原紙への糊付条線の角度、斜面中割りカッターの傾斜度等の操作条件を変えることにより、特別の道具を使用することなく、いろいろの形状の三角袋を製造することができ、(3) 袋は三角状を呈しているので、ぶどう等の包装には最適である。

3 ロ号方法と本件発明との対比

(一) (a)とA、(e)とE、(f)とFはいずれも同一である。

(二) (b)に対応するものは、本件発明の構成要件にはないが、製袋工程でガセット部を形成することは当業者間に周知の技術常識であり、極めて置換容易な慣用技術であるから、(b)の存在は、単なる設計変更、設計上の微差、単なる付加若しくは迂回、または利用関係に過ぎない。

(三) (c)はB、Cに対応する。即ち、本件発明では、〈1〉 〈省略〉形の糊付条線(以下、本判決では便宜「鈎形条線」という)を付してから〈2〉 上下原紙を接合重合し(以上B)、〈3〉 下側原紙の両端部に沿って直線状の糊付条線を付する(C)のに対し、(c)はその〈2〉と〈3〉を逆転させただけであって、実質的差異はない。また、B、Cでは原紙両端の縦線が連続しているのに対し、(c)では、それが不連続であるが、これも実質的意味のあるものではない。

(四) (d)はDと同一である。(d)の場合、Dのように下側原紙を内側に曲折することなく、単に上側原紙に接着させるだけであるが、これは(d)がガセット部を有することからくる当然の差異であり、ガセット部は周知の技術常識であるからには、何等問題とならない。

(五) 両者の作用効果は全く同一である。

4 ハ号方法と本件発明との対比

(一) (a)とA、(d)とD、(e)とE、(f)とFはいずれも同一である。

(二) (b)(c)とBCとは、それぞれを合わせ考えれば、相違点はない。即ち、本件発明では、〈1〉鈎形の糊付条線を付してから、〈2〉上下原紙を接合重合し(以上B)、〈3〉直線状の糊付条線を付する(C)のに対し、(b)(c)はその〈2〉と〈3〉を逆転させ、鈎形と直線状の二種類の糊付条線を一度に付してから、上下原紙を接続重合させただけであり、実質上、何等の差異もない。

(三) 両者の作用効果は全く同一である。

5 ロ号・ハ号方法と本件発明の実質的同一性

(一) 本件発明は、巻軸から解き出される二枚の移送原紙の内、幅広い原紙の中間にその進行方向に対し袋截断長に合わせて斜めに鈎形の糊付条線を順次断続的に塗布し、両原紙を接続重合するものである(第一特徴)ところ、ロ号・ハ号方法も同様に、送り出される二枚の原紙の内、その幅広い原紙の中間にその進行方向に対し袋截断長に合わせて斜めに鈎形の糊付条線が塗布され、両原紙が接続重合される点で一致する。

ただ、本件発明が、幅広い原紙の両側部に沿って直線状に糊付条線を前記工程と分けて塗布するのに対し、ロ号・ハ号方法は、鈎形の糊付条線の塗布と同時に幅広い原紙の両側部に沿って直線状に糊付条線を塗布する違いがある。しかし、何れも幅広い原紙に塗布する点では一致しており、切り欠きディスクにより糊が所定箇所で千切れた直線状の糊付条線を原紙に転写塗布することは、従来の製袋機における貼付け技術として全くの慣用技術であり、特別の工夫もなく本件発明に基づいて容易に置換できる。

(二) また、本件発明は、螺旋刃の回転により鈎形糊付接着部の斜線部間の中間より中割(切断)して左右に二分するものである(第二特徴)ところ、ロ号・ハ号方法も同一の手段による斜め直線切断方法であり、この切断に際し、一部切断しない接続部を残して置くことは、従来の慣用技術であるミシン目切断形成と同様に、螺旋刃の周線に切り欠きを設けることで達せられ、本件発明に基づいて容易に置換できる手段に過ぎない。

(三) 右本件発明の二特徴は、ロール紙のような連続原紙からその進行方向に左右対称の三角袋を一度に二枚ずつ、原紙を停止することなく製袋できるという従来技術にない新規性・オリジナリティの極めて高い技術であって、本件特許方法は、ローラ表面に螺旋形に突設した糊付条帯、及び螺旋刃を設けて糊付切断する手段なくしては達しえないものであるところ、ロ号・ハ号方法はこの点が全く同一、若しくは明らかに酷似しており、模倣の域を出でず、ガセットか、フラットかの差異は、襞折込みのアタッチメントの有無によって同じ製袋機で製造できる当業者の慣用技術である。このため、被控訴人の製造方法による特許出願は、本件特許に基づいて容易に発明できたとして拒絶査定を受けているのである。

一審原告が鋭意研究の結果なしえた本件発明を、その経営にかかる大昭化工(株)の工場を見学した被控訴人関係者が、故意に模倣したことは、原審高野証人の証言、右出願時の明細書、図面の類似によっても明らかである。

(四) しかして、本件特許は、従来の公知技術を引用されることもなく、特許異議申立もなく特許されたもので、いかなる先行技術にもない構成、作用効果により、発明の新規性、進歩性が認められたのであるから、その技術的範囲は広く解釈されるべきである。

(五) 被控訴人は、本件特許は、従来技術(甲第七乃至一二号証)の寄せ集めであるというが、右従来技術は、次の全て又は一部の特徴を備えているのに対し、本件発明は、素材紙を停止することなく、また、溶断、溶着ではなく、糊付とカッターによる切断とで、その素材紙の走行方向に向かって左右に対称的に台形袋、三角袋を一度に二枚ずつ製造しうるもので、何れの従来技術にも該当しない。

〈1〉 原紙を停止しないで袋を形成するものは、原紙の走行方向に対し横向きに三角袋又は台形袋を形成するものであった。

〈2〉 溶断、切断に際し、袋素材紙を停止させて行うものと、停止しないで溶着および溶断、又は切断するものとがあったが、何れも熱溶着、溶断可能な合成樹脂フィルムを袋原紙としている。

〈3〉 袋原紙を停止しないで製袋するものでは、原紙の進行方向に横向きに三角袋又は台形袋を一枚ずつ製袋するものである。

二  被控訴人

1 本件発明の構成(但しそれは、特許請求の範囲の文言を正確に用いるべきであるが、)・作用効果、ロ号・ハ号方法の構成・作用効果についての控訴人らの主張は認める。

控訴人らの主張は、いわゆる均等が成立するとの点にあるが、均等論自体議論のあるところであるし、認められるとしても厳格な要件の充足が必要であるところ、控訴人ら提出の従来技術に照らせば、本件発明は、進歩性を欠いた無効のものと見るべきであり(控訴人らは従来技術の内容を全く誤って捉えているため、本件発明が、従来技術にないオリジナリティを有するなど、見当違いの主張に終始している。)、仮に有効としても、きわめて技術範囲の限定されたものであって、均等などの成立する余地のないものである。

即ち、控訴人らは、本件発明は、〈1〉二枚の原紙を使用する、〈2〉原紙の進行を止めることなく、連続して、二枚の原紙を糊で接着する、〈3〉糊による接着工程とは別工程で、原紙の進行を止めることなく、連続して、接続された原紙を切断する、〈4〉接着された原紙の進行方向(縦方向)に左右対称的に、三角袋(台形袋)を二枚ずつ連続して製造する、という点で新規性があると主張するが、袋体の製造方法として、袋体の形状に合わせて接着し、切断する(或いは切断し、接着する)ことは周知の方法であるところ、前記従来技術は、何れも連続的に三角袋(台形袋)を大量生産するための技術であり、且つ、右〈1〉の技術思想は、甲第八及び一二号証に開示され、また、甲第七、九、一〇、一一号証には、実質的に同様の技術思想の開示が見られ、〈2〉、〈3〉の点も、甲第七乃至一二号証に全部開示され、〈4〉も少なくとも甲第一〇、一一号証に明らかに開示されている。このように、本件発明の各要素が、従来技術の何れかに開示されていることは、その組合せとしての本件発明も当業者には、容易に考えつきうる事項に過ぎず、進歩性に欠け、仮に有効としても、特許請求の範囲記載どおりの具体的工程をもってその技術的範囲を画される極めて限定された内容のものであり、均等論適用の余地は全くない。

2 従って、控訴人らが、本件発明とロ号・ハ号を対比して、糊付工程に差異があることを認めつつ、そこに「実質的な差異がない」とする主張には、何等の根拠もない。これを作用効果の点から見ても、ロ号・ハ号は糊付工程が一工程で済むこと、連続した糊付条線でないので、糊のはみ出しがないことなど、本件発明にない作用効果があると同時に、糊付けロールをそっくり取り替えることなしに袋の形を変更することができないから、「道具を代えることなしに同一装置で」種々の三角袋が製造できるという本件発明の作用効果を欠くものでもある。

3 更に、控訴人らは、本件発明の糊付工程とロ号・ハ号の糊付工程とが置換容易であるというが、右は、(1)「切り欠きディスクにより糊が所定箇所で千切れた直線状の糊付条線を原紙に転写塗布することが、従来製袋機における貼付技術として慣用技術である」との証拠を示さず、(2)本件発明が、鈎形の糊付工程と直線部の糊付工程とを明確に区別していることを失念した主張である。本件発明とロ号・ハ号とでは、前者が糊付を二工程に別けて行うのに対し、後者は、これを一挙に完了させる一層簡潔で優れた方法であって、これを糊付条線を原紙上に静的においた結果の状態で対比することは、製造技術の問題である本件では、誤解を来たすばかりで、控訴人の右主張は、この誤解(歪曲)を前提とするものである。

4 また、控訴人らは、ロ号のガセット部の形成が周知技術であるというが、それは、四角形の袋についてであり、その場合(甲第一三号証)は、ガセット部の形成箇所をあらかじめ筒状にして形成するものであり、ロ号方法のように一枚の原紙の端部を連続的に折り返して形成するものではない。ロ号方法は、そのほかにも、様々な長所があり、特許庁による拒絶理由通知は、この点を看過した失当なものである(これに対し、被控訴人が意見書を出さなかったのは、単なる経営判断によるものである。)。

5 なお、被控訴人側が大昭化工(株)の工場を見学して模倣したとの点は、原審証人大西の証言で、そのような事実のないことは明らかであるが、本件特許の出願は、昭和五一年に公開、五三年に公告されているところ、控訴人らの主張によっても、被控訴人が三角袋を製造したのは、六〇年からというのであるから、その主張自体不自然というほかはない。

第三  争点3(控訴人らの損害賠償請求若しくは不当利得返還請求の成否乃至その額)について

一  控訴人ら

1 被控訴人の昭和六〇年一月以降平成四年一二月末日までの間の三角袋(イ号・ロ号・ハ号物件)の売上げは、一年度(一シーズン)当り二二〇〇万円を下らないものと推定できる(甲第一六号証)から、全期間を通じ、一億七六〇〇万円を下ることはない。

2 被控訴人の右販売による純利益は、売上げの一五パーセントを下らないものと推定される(控訴人らが同旨主張をなし、文書提出命令が発せられたに拘らず、被控訴人がこれに応じないこと、及び訴外大昭化工(株)における三角袋の販売の純利益が売上げの一五パーセントを下らないことから推定できる。)

3 そうすると、被控訴人が前期間内に三角袋(イ号・ロ号・ハ号物件)の販売によって得た利益の額は、二六四〇万円を下らないこととなる。(被控訴人が、昭和六〇年一月以後も、少なくとも、ハ号物件はこれを販売していたことは、検甲第四、五号証、同第一〇号証の一ないし三、同第一一号証、同第二四号証によって明らかであるが、被控訴人が文書提出命令に応じないため各物件の割合、金額は特定しえない。しかし、イ号・ロ号・ハ号各物件の何れもが権利侵害品であるから、全体を一つの行為とみることができ、売上げの物件別特定は不要と考える。)

4 被控訴人の得た右利益は、控訴人らの被った損害と推定され(特許法一〇二条一項)、又は、被控訴人は、右売上げによって、法律上の原因なくして右利益額と同額の利益を上げて不当に利得し、控訴人らに損失を及ぼしたものである。

5 よって、控訴人らは、被控訴人に対し、主位的に損害賠償請求、予備的に不当利得返還請求として、金二六四〇万円及び、内金三〇〇万円については訴状送達の日である平成三年八月四日から、内金七五〇万円については第一回の請求拡張をした準備書面到達の翌日である平成三年一〇月九日から、内金一五九〇万円については第二回の請求拡張をした準備書面到達の翌日である平成五年一月一四日から各支払い済みまで、年五分の割合による法定遅延損害金との支払いを求める。

二  被控訴人

1 控訴人の売上高に関する主張は否認する。甲第一六号証に基づく推定は、全く合理的根拠を欠くものである。また、検甲号証を拠り所とするハ号物件の販売に関する主張も牽強付会の謬論である。

2 同純利益の主張についても否認する。なお、被控訴人が文書提出命令に応じないからといって、控訴人の主張が動かしえないものとして直ちに認められてはならない。民訴三六一条は、裁判所の認定が合理性の範囲内に留められるべきことを示しており、本件において、控訴人らの主張は、全く合理的根拠を欠くものである。

3 仮に、ロ号・ハ号方法が本件発明の均等方法であると認められるとしても、ロ号・ハ号方法は被控訴人の独自の開発であること、均等の成立は高度の判断作業を経て認定されるものであるところ、その成立可能性を被控訴人が予め認識していたと認むべき事情がないこと、控訴人の均等成立の主張が控訴審に至ってなされたこと、等を考えれば、被控訴人には、不法行為成立要件としての過失がない。

仮に、過失が認められても、このような経過に徴すれば、特許法一〇二条三項が適用されるべきであって、多くとも通常の実施料相当額を上回るものではない。

4 不当利得返還請求については、仮に成立しても、返還すべき利得の範囲は、実施料相当額に限られる(昭和五七・一・二八大阪高裁判)。

〔証拠関係〕

原・当審記録中、証拠目録記載の通りであるから、これを引用する。

理由

第一  争点1〔被控訴人がイ号物件を製造・販売したか否か〕について

一  原審証人大西俊一の証言によって昭和六〇年一〇月七日被控訴人工場内の三角袋製造機を撮影した写真と認められる乙第四号証の一ないし三、同証言により成立の認められる乙第七号証に同証言を総合すると、被控訴人は昭和五九年頃から本件係争の三角袋を製造し出したが、その製法は、別紙略図面に示すようなもので、「(1) 糊補給ローラー〈2〉が、糊壷〈1〉の中の糊と接し、糊を付着しながら回転して糊ドクター〈3〉で糊を掻き落としながら糊量を調整する。(2) 螺旋条糊ベラ〈5〉、底糊ベラ〈6〉、円形糊ベラ〈7〉がローラー軸に固定してある糊付ローラー〈4〉が、糊補給ローラー〈2〉と接触しながら一回転で、各ヘラに転移する。〈5〉〈6〉〈7〉の各ヘラに付着した糊は、押えローラー〈8〉と接触し、糊付ローラー〈4〉と押えローラー〈8〉との間を進行する下側原紙に糊を塗布する(糊付ローラー〈4〉は一回転で、相対する鈎型の糊付をする)。(3) 下側原紙の端部に塗布された直線状の糊を均らす装置として、希望する糊巾に合わせて針がねの先端を平らにした糊均らしベラ〈9〉(合金針金製)が設けられている。」というものである(乙第七号証)。

二  ところで、前図に示す円形糊ベラ〈7〉には、切り欠きが設けられていて、これによるときは、下側原紙に塗布される端部直線状の糊付条線はその切り欠き部分で途切れて断続的となるが、この切り欠きがなければ、同糊付条線は連続したものとなるわけであって、結局本件争点であるイ号方法は右円形糊ベラに切り欠きがないものであり、ハ号方法は切り欠きの有るものである点に帰一する(弁論の全趣旨)。そして前掲証拠によると、被控訴人は当初はイ号方法を試みたが、上下両原紙の吸水性が劣っているため、糊接着が困難で、圧着すると、糊が前後左右に広がり、直線糊付条線が連続している場合、その状態で切断すると、切断面から糊がはみ出て、天糊状態(袋と袋が糊切断面で接着してしまう)となり、製品価値が劣ることが判明したので、その製造を始めてから一〇日程して、糊の付いていない部分を作り、そこから切断すべく、ハ号方法に切り替えたこと、しかし、なお機械精度に問題があり、糊が均一に転移できず、その量に多少ができたり、二本線になるなどのことが生じたので、糊ならしベラを設けて、糊付条線をならすこととしたこと、が認められ(乙第七号証)、これに反する証拠はない。

三  控訴人らは、被控訴人の右立証は、被控訴人が真実はイ号方法を実施していながら、それがハ号方法であるように取り繕うための言い逃れに過ぎないとして、婁々攻撃するが、次のとおり、控訴人らの全立証によっても、被控訴人の実施した方法が前記当初の試作段階を除き、イ号方法であったと認めるに足りない。

1  まず、出来上がり製品から見て、被控訴人が市場に販売したものが、イ号製品であったとはたやすく認められないことは、左のとおり付加訂正するほか、その点についての原判決の理由と同一であるから、これ(原判決一〇枚目裏二行目から一六枚目表末行目まで)を引用する(この点において、原判決は、各製品が訂正前のイ号方法によるものであったか否かを判断したものではある。しかし、その説示で採り上げてある出来上がり製品における糊付条線の付着態様については、訂正後のイ号方法によるときも、全く同様のことが言えると思われるから、この点に関するかぎり、イ号方法の特定の変更は右判断を左右するものではない。)。

(一) 原判決一三枚目裏七行目の冒頭「三」の次に「及び当審検証の結果」を加え、同九行目の「にしていることが視認される。」を「させてしまうことがありうることが認められる。」と改める。

(二) 同一五枚目表五行目の次に改行して次の一項を挿入し、同六行目冒頭の「(七)」を「(八)」と改める。

「(七) なるほど控訴人主張のように、纏まった製品群の中に、その両者が混在していると言うことをどのように評価すべきかには問題があろう。しかし、その点は、積極的にイ号物件を作成すべく、イ号方法を採用したならば、おそらくほとんど例外なく、直線糊付条線は連続することとなるが、ハ号方法を採用した場合は、糊ならしべらの取りつけ状態如何では、かなりの確率で直線糊付条線が連続してしまうことがあり得ることが、当審検証の結果からも窺われるから、右混在の事実は、ハ号方法を採用したに拘らず、イ号物件と見紛う物が混在したと見る方が無理がない。確かに、そのように、ハ号方法によりながら、イ号物件と見紛う物が作り出されてしまうことは、被控訴人のハ号方法採用の目的にそぐわないものである点を考えれば(被控訴人が当初試作したイ号方法を間もなくハ号方法に変更したのは、製品としての用途の向上を図ってのことであったことは前認定のとおりである)、控訴人らが忖度するように、被控訴人において、実際にはイ号方法によりながら、本件特許回避のために、工業的には実施していないハ号方法を持ち出してきたのではないかとの疑問も持ちえないではない。しかし、被控訴人主張のハ号物件への変更が、全く意味のないことで、その点でイ号物件のほうが優れていると認められる証拠はなく、且つ、後に説示するように、被控訴人の製法が本件特許に抵触するかどうかは、前記円形糊ベラがローラー軸に固定してあって、螺旋条糊ベラと同時回転することによって、前記本件発明のB構成要件の鈎形糊付条線にあたるものと、直線糊付条線の塗布とが同時に行われなければならないのか、別個(異時的)に行われてもB構成要件を充足するかどうかが決定的な争点であって、直線糊付条線が連続することは本件発明の必須構成要件とは認められないのであるから、被控訴人において、敢えて本件特許回避のために、ハ号方法を用いた上で、わざわざ糊なしべらを取りつけて、直線糊付条線を連続させる必要性は全くないと言わなければならない。よって、控訴人らの前記主張は、単なる杞憂として採用できない。」

2  そもそも、控訴人側は、前記のとおり、始めはイ号方法を、原判決別紙イ号方法目録記載のとおり、本件発明の特許請求の範囲の記載そのままの文言で特定していたように(但し、鈎形条線の形状だけは、被控訴人製品に合わせた記載としていたが)、被控訴人製品の具体的製法を把握しないまま、その製品一部の出来上がり形状から、本件発明方法に属する方法を実施しているものと想定して本訴を提起したが、被控訴人の製法の開示並びに原審判断を受けて、漸く本判決別紙イ号方法目録のとおりにイ号方法の特定を遂げるに至ったのであって、かかる経過に鑑みても、イ号方法の実施を言う控訴人らの主張・立証には、自ずと限界があるものと見なければならない。

第二  争点2〔ロ号・ハ号方法は、本件発明の技術的範囲に属するか〕について

一  本件発明の構成要件、作用効果及びロ号・ハ号方法の各構成、作用効果については、何れも前掲控訴人らの主張(第二の一1、2)のとおりであることについては、当事者間に争いがない。(もっとも、被控訴人は、右控訴人主張による本件発明の構成要件の分説は特許請求の範囲の記載の文言どおりでないと主張し、特許請求の範囲の記載に於いては、右分説のCとDとが「と共に」で一節に繋がれているから、その「と共に」が、CD両工程の同時進行性を謳ったものとすれば、その点の明確性を欠くことになるが、本件技術上、右両工程を同時に進行させることは、不可能と考えられるから、ここに右「と共に」の文言を省略して、二要件に分説してもその分説方法を誤ったものということはできず、また、その余の文言の相異する箇所は、何れも特許請求の範囲の意味内容を損なうものではない。よって、以下、控訴人ら主張の前掲の分説を採用しこれにロ号・ハ号方法の各構成を対比して考察することとする。)

二  右によれば、本件発明の構成要件は、

A  巻軸より解き出される紙、合成樹脂フィルム等二枚の移送原紙を用いる以下の工程からなる三角袋の製造方法であり、

B  二枚の原紙のうち幅広い下側原紙の中間に、その進行方向に対し、袋截断長に合わせて斜めに鈎形糊付条線を順次断続的に付して上側原紙と接続重合し、

C  下側原紙の両端部に沿って直線状に糊付条線を付し、

D  下側原紙を内側に折曲して上側原紙の両端部上に糊付接着し、

E  螺旋刃の回転により前記鈎形糊付接着部の斜線部より中割して左右に二分し、

F  さらにこれを進行方向に対し斜設した斜面カッターにより、鈎形接着部の鈎形部に沿って間欠的に斜めに截断して一度に左右対称形の三角袋を二枚ずつ順次連続的に成形する。

ものであるところ、(1) ロ号・ハ号方法は共に、そのA、E、Fを、ハ号は更にDを充足すること、(2) ロ号は、本件発明にはない「ガゼット部」の形成工程を備えると共に、B、C要件に対応するものとして「(c) ガゼット部が形成された下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程」が、D要件に対応するものとして「(d) 糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程」を有し、(3) ハ号は、B、C要件に対応するものとして「(b) 上側原紙より巾広の下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程、(c) 糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程」を有すること、が認められ、本件発明と、ロ号・ハ号方法との異同は、右(2)、(3)の点について対比すべきものと認められることも、控訴人ら主張のとおりである。なお、本件発明のB構成要件に於ける鈎形条線の形とロ号・ハ号方法の各それとは幾分異なるところがあるけれども、その相違あるをもって、ロ号・ハ号方法が本件発明に属しないということはできない。その理由は、原判決が本件発明と訂正前イ号方法との対比につき説示したところがそのまま当てはまるからこれ(原判決六枚目表末行から同裏末行まで)を引用する。

三  ところで、被控訴人が当初ハ号方法により製造し、その後ロ号方法を採用したことは当事者間に争いがないので(なお、ロ号方法採用後もこれと並行してハ号方法を続けてきたかについては争いがあるが、その点はしばらく措く)、まず、先行したハ号方法の方から判断する。

1  前記本件発明方法におけるB構成要件と、ハ号における(b)(c)構成との相違についてみる。本件発明の公報に記載された発明の詳細な説明によると、右B構成要件に関する部分は、「二枚の原紙を逐次解き出し乍ら上、下二段に移送し、上の原紙より幅広い下側の原紙の中間に、その進行方向に対し袋截断長に応じて……〈省略〉形の糊付条線を順次断続的に塗布して上側を移送する原紙と積層糊着すると共に下側原紙の両端部の上面にはその進行方向に対して直線状に糊付条線を塗布して進行させ(2欄10~17行)」るもので、その適切な実施例として「上下原紙は合わせローラー部に移送されるが、その前段階において下側原紙は糊付装置9を通過して所望の鈎形条線が断続的に塗布される。次いで合わせローラーとローラー軸によって上下原紙が糊付重合され、その際左右対称に設けた夫々の糊付装置16に於けるローラー軸上のプーリーと上部のガイドプーリーとに捲回した弾性コードが糊容器及びノズル内を通じて下側原紙の両側部上に接触した状態で回動するために弾性コードに添付された糊によりその両側部に沿うて直線状に糊付条線が塗布されて行く(4欄25~45行要約)」方法が示されている。そして、上記鈎形条線を塗布するための糊付装置9は、「回転ローラーの外周面に袋截断長に応じた長さを有し且つ中央に凹溝13を有して左右分離した糊付条帯14を螺旋状に捻回して取付けた糊付ローラー12と、此のローラーの糊付条帯14に糊を補給する糊補給ローラー15とからなっている(3欄5~10行)」もので、前記下側原紙がここを通過するとき、「右糊付条帯14に糊が糊補給ローラー15を介して塗布されると共に糊付ローラー12が原紙4の進行速度に同調して接触回転する(4欄29~31行)」ことによって鈎形条線が断続的に塗布されることになっている。これに対してハ号の(b)(c)構成では、前記第一の一に認定(別紙略図面参照)のとおり、本件発明の鈎形条線を塗布するための糊付装置9に於ける糊付けローラー12に該当する螺旋条糊ベラ〈5〉の固定された糊付ローラー〈4〉の左右両側に薄い円形糊ベラ〈7〉を取り付け、その円形糊ベラが回転ローラー〈4〉と同調して回転しつつ、鈎形条線を付するための螺旋条糊ベラ〈5〉と共に糊補給ローラー〈2〉により円形糊ベラ〈7〉の側面部にも糊が補給され、下側原紙に対する螺旋条ベラ〈5〉による鈎形条線の塗布と右円形糊ベラ〈7〉による両側部直線条線の塗布とが同時に行われる構成となっているところ、その円形糊ベラ〈7〉の円周上の一部に切り欠きを設けているため、出来上がりに於いて両側の直線条線は連続せず、一定の間隔を置いて途切れたものが現れることとなっていることが認められる(乙第四号証、検証の結果、弁論の全趣旨)。

ところで、本件発明における上記鈎形条線の塗布と両側直線条線の塗布とを別工程に分けていることは、前掲本件発明の作用効果を達成するにおいて必ずしも必須の技術手段であるとは認めがたく、ハ号方法のように、これを同時に行っても、「ロール紙のような連続原紙からその進行方向の左右に対称形の三角袋を一度に二枚づつ、原紙を停止することなく、製袋する」という本件発明の目的と同様の目的を達し、その完成された製品の機能においても異なるところはないと考えられ(いずれにせよ、糊付けされた両側直線条線は、次の折返工程〔D及び(d)〕によって、上側原紙に重合されるされるのであるから、右折返工程の以前にそれが塗布されていることが不可欠の手段であって、鈎形条線と両側直線条線の塗布との前後関係は、必ずしも動かし得ないものではない。ハ号も折返工程以前に両側直線条線の塗布を終えている点に於いては本件発明と同じである。)、且つ、これを一工程で済ませようとすれば、本件発明における糊付装置16に代えてハ号のように、回転ローラー(糊付ローラー)の両側に円形糊ベラなど円盤状のものを取り付け、上記のようにしてその目的を達することは、当業者においては、置換容易な技術手段に過ぎないものと認められる。確かに、前記本件公報実施例の示す右両側直線条線を付するための糊付装置9の技術手段と、ハ号のそれとは、技術手段それ自体としては異なるものではあるが、本件特許請求の範囲は、下側原紙に鈎形条線と両側直線条線とを附することを規定するのみで、それぞれの糊付手段は当業者の選択に委ねているのであるから、右手段の相違は、重要ではない。

次に、前記円形糊ベラに切り欠きを入れ、両側条線を断続にしたことも、前記本件公報実施例からは達成しえないことであるけれども、右のとおり円盤状のものを用いて両側条線を附することが置換容易な技術手段である以上、これに切り欠きを入れて附すべき条線を断続にすること自体は何ら工夫を要しない慣用手段であると認められ、且つ本件発明の特許請求の範囲の記載からしても、C要件の「直線状に」というのが、その断続することを積極的に排除しているとも考えられず(従って、それが連続していることが、必須構成要件であるとは直ちに言えず)、両側条線を断続にすることで、本件発明にない作用効果を付加するものであったとしても、結局それは本件発明を利用したものと言わざるを得ない。

また、本件発明のEとハ号の(e)とは、斜め直線切断方法において全く同一であるが、後者が三箇所の切断されない接続部を残してある点で異なっている。しかし、右のような接続部を残すこと自体の技術手段は、当業者にとっては、慣用の手段を応用することで容易に為しうることと認められる。そして、ハ号方法も、本件発明と同様の作用効果を達成していることは、被控訴人も認めるところであるが、それは、対称形に付された鈎形条線の斜線部より中割して左右に二分する方法により達せられているのであって、そこに右接続部を残すことが何らかの作用効果を付加するものであるとしても、前記切り欠きのそれと同じく、本件発明を利用したに過ぎないものと認められる。

かくて、ハ号が、本件発明とは上記の点で相違しながらも、本件発明の特徴である「ロール紙のような連続原紙からその進行方向の左右に対称形の三角袋を一度に二枚づつ、原紙を停止する事なく、製袋する」という目的を達し、そのために、控訴人らの言う本件発明の二特徴を共に備えているところ、その相違点は、右発明の目的・特徴を左右しない範囲で容易に置換及び付加し得る技術と認められる以上、ハ号方法は、本件発明に属するものと言わざるを得ない。

2  被控訴人は、右控訴人ら主張の本件発明の目的・特徴なるものは、すでに、先行技術の開発したもので、本件発明こそ、これら先行技術から、容易に推考できるものであるから、本件発明の技術的範囲は、公報実施例記載のものに限定されるべきであると主張し、左記先行技術をそれぞれ次のようなものとして援用する。

〈1〉 合成樹脂製袋の製造機(実公昭三六-二二七七九号。甲第七号証)

「偏平合成樹脂筒体」を一方向に走行させ、所望の袋体形状に合わせた「電熱押型」によって筒状に重なっている二枚の合成シートを袋状に「溶着」し、次いで「作動刃」を降下袋体形状に一度に切断して、台形状の袋を製造する技術。

〈2〉 ポリエチレンの切取線付袋製造機(実公昭三七-三〇四八九号。甲第八号証)

「原反リール」から二枚のシートを引き出し、「製造しようとする袋の輪郭に合致する比較的幅広な熱着突条」を有する「中空ローラー」により、シートを一方向に走行させつつ、「熱着突条」によって「両シートを凸条線に沿って熱着すると同時に、尖鋭歯によって熱着中心線上に切取り線を付設し、この加工を終わったものを巻取りリールで巻取る」ことによって袋を製造する技術。

〈3〉 ビニール製三角および菱形袋の成型加工装置(特公昭四三-五三〇三号。甲第九号証)

「連続した長尺の二つ折ビニール生地」を一方向に走行させ「ビニール生地の上下両面を傾斜状に融着し」さらに切断することによって正三角形状や菱形の袋体を製造する技術。

〈4〉 梯形袋の製造方法(特公昭四四-三一一九四号。甲第一〇号証・乙第一号証)

「合成樹脂フィルム製で偏平にしたチューブを梯形袋の深さとなる所要長に切断し」この素材に「折線上の一個の溶断刃」を「圧接して溶断」を行い、「梯形袋の二個が同時に得られる」技術及び「この袋素材を長尺チュウブとしこれを逐次間欠的に引き出し、その停止時に上記加圧溶封を行うようにした」連続的製袋方法の技術。

〈5〉 梯形袋の製造方法(特公昭四六-二五一〇八号。甲第一一号証)

溶断刃を「梯形袋の深さに等しいか、之より大なる長さと梯形の斜辺の傾き角度とを有する側縁溶断刃と、これにチューブを直角に横切る底頂縁溶断刃を結合して変形人形」とし、これによって、同時に二個の梯形袋素材を製造する技術。

〈6〉 果実包装袋(実公昭五〇-三三三六二号。甲第一二号証)

「巻取セロハン原紙の上面にその幅よりも若干小さい幅の巻取柔軟繊維原子を重合し、その下面にジグザグ状に糊着」し、「このようにした重合貼着原紙をジグザグ状糊着部の中心線に沿ってジグザグ状に切断して包装袋を得る」技術。

被控訴人は、控訴人が本件発明の新規性として主張する、(1) 二枚の原紙を使用する点は、〈2〉と〈6〉とに、(2) 原紙の進行を止めることなく連続して、二枚の原紙を糊で接着する点及び(3) 糊による接着工程とは別工程で、原紙の進行を止めることなく連続して、接続された原紙を切断する点は、〈1〉乃至〈6〉に、(4) 接着ざれた原紙の進行方向に、左右対称に三角袋を二枚ずつ連続して製造する点は、〈4〉と〈5〉にそれぞれ開示されているから、その組合せとしての本件発明は、当業者の容易に考えつきうる技術であると主張する。

これに対し控訴人らは、右先行技術を本件発明と対比すると、

〈1〉の技術は、「連続する偏平合成樹脂筒体(チューブ)をその移動停止期間において、電熱押型の降下により袋の溶着部を形成し、その偏平合成樹脂筒体を狭圧しながら移動して、その送り出された偏平合成樹脂筒体の送り停止期間に、押下する作動刃により前記溶着部の位置に合わせて切断し、偏平合成樹脂筒体の進行方向に対し横向きに台形の袋を間欠的に製造する」もので、熱溶着及び熱溶断の利用であって、右、本件発明の(1)乃至(4)の何れにも当たらず、

〈2〉の技術は、「素材の間欠的停止はないが、熱溶着可能なシートで熱圧着して、シートの長さの方向に対し横向きに袋口と袋底を交互して連続する三角袋を熱圧着と切取線の付設とを行い、連続形成する」もので、原紙の長さ方向に一度に二枚ずつ製袋され、熱溶着は一切行わない本件発明とは相違し、

〈3〉の技術は、「切断刃の可動刃とこれに対抗する固定刃の三角形の二辺が交叉する二辺によりビニール生地を停止して、そのビニール生地の走行方向に対して横三角形にビニール生地の融着部および相隣る融着部の上端と下端を結ぶ線上を同時に切断して、正三角形の三角袋が同時に二枚ずつ一動作にて成形する」もので、偏平チューブも、溶断刃を使用せず、素材を間欠的に停止しない本件発明とは相違し、

〈4〉の技術は、「合成樹脂フィルム製で偏平になしたるチューブの梯形袋の深さとなる所要長さに切断し、この所要長さに切断されたチューブの袋素材の両切断縁間を袋素材の略中央を斜め方向に溶着し、且つこの溶着線の中央を切断すると共にこの袋素材を二つに切断された夫々その一開口端縁を溶着し、これにより偏平になしたるチューブから同時に二個の台形袋を製出する」もので、単一の偏平チューブとせず、溶着可能な袋原紙による溶着もなく、糊付接着で、連続原紙からその長さ方向に一度に二枚の左右対称形の三角袋を連続形成する本件発明とは相違し、

〈5〉の技術は、「熱溶着可能な合成樹脂フィルム製チューブ(偏平筒形)に対し、側縁溶断刃と底頂縁溶断刃を結合した一個の溶断刃を足踏板を踏むことによって間欠的に降下して、チューブ面に圧接して溶断し、同時に二個の台形袋を作る」もので、袋素材が熱溶着可能なチューブであること、チューブの移動を間欠的に停止することが必須構成要件となっており、この要件を備えず、袋原紙を停止せしめず連続製袋できる本件発明とは相違し、

〈6〉の技術は、「三角形のセロハン紙の下面に三角形繊維紙を重合し、三角形の斜辺に沿って相互を貼着すると共に、三角形の底辺において、セロハン紙と繊維紙の端縁を段階状にずらし、かつ三角形の頂点において繊維紙の頂部を切欠いて通孔を形成した果実包装袋で、原紙にジグザグ状に糊着し、両原紙を圧接ローラー間に挿入して重合貼着し、ジグザグ状糊着部の中心線に沿ってジグザグ状に切断して袋底と袋頂部が左右交互した、原紙進行方向に対し横に三角形包装袋を形成していく」ものであり、本件発明とは、袋原紙より製造される袋形状が異なり、また連続した袋原紙の長さ方向に左右対称形に一度に二枚ずつ連続製造できるものでもない。

しかして、右従来技術は、(一) 原紙を停止しないで袋を形成するものは、原紙の走行方向に対し、横向きに、三角袋又は台形袋を形成するものであり、(二) 溶断・切断に際し袋素材紙を停止させて行うものと、停止しないでするものとがあったが、いずれも熱溶着、溶断可能な合成樹脂フィルムを袋原紙としており、(三) 袋原紙を停止しないで製袋するものは、原紙の進行方向に横向きに三角袋又は台形袋を一枚ずつ製袋するものであったのに対し、本件発明は、素材紙を停止することなく、溶断・溶着ではなく、糊付とカッターによる切断とで、素材紙の走行方向に向かって左右に対照的に、一度に二枚ずつ連続製造しうるものである点で、何れの従来技術にも該当しないと主張するところ、成立に争いのない甲第七乃至一二号証と弁論の全趣旨によれば、右控訴人らの主張は、概ね妥当であり、これと本件発明が、拒絶査定など受けることなく、特許されていると認められることからすれば、本件発明は、前掲各先行技術の各一部に現れた技術と重なり合うものはあるけれども、その何れの技術にもない発想に基づき、前掲(1)乃至(4)の要素を総合した新たな発明と評価でき、前記従来技術の一端を単に寄せ集めただけであって、その権利範囲が公報実施例に開示された範囲に限定されなければならないものと評価することはできない。

被控訴人の主張は理由がない。

四  そこで次にロ号方法について考察する。

ロ号は、糊付工程(ハ号の(b))の前段階に下側原紙の両側端部を折り返してガセット部を形成する工程((b))を置き、次の糊付工程では、両側直線条線は、ガセットの折返部分に付されるため、ハ号の折返接着工程(ハ号の(d))に当たるところでは、最早折返しを要せず、単に上側原紙を接着するだけに留まっている((d))ものである。そのほかは、ハ号に同じ。

控訴人らは、右ガセット工程を付することは、当業者の容易に推考しうる技術であり、ガセットを付すれば、そのように上側原紙との接着に当たり、折返しを要しなくなることも当然であるから、ロ号方法も本件発明の均等範囲に属すると主張する。

しかしながら、両方法が目的とする製品に於いてガセット部を有すると否とでは、需要家の立場からすれば、相当の隔たりのある別個の商品と受け取られると思われること(ガセットが付いていると、間口が広く開きやすくて、ぶどうを入れやすく能率がよい〔原審証人木村幸造〕。また通気性に富んでいる〔原審証人大西俊一〕。)、そのような観点から被控訴人においてもハ号に変え又はそれとは別にロ号を採用したと推認し得ること、ガセット工法そのものは控訴人ら主張のとおり既知の慣用技術ではあろうが、上側原紙より幅の広いフラットの下側原紙の両端に糊付条線(直線条線)を付し、これを折り返して上側原紙に糊付重合する技術思想(本件発明)と、下側原紙にガセット部を形成しその幅を上側原紙と同じにして、折返しを要せずに上側原紙と糊付重合する技術思想とは、やはり異なるものがあり、本件発明のD構成要件を明確に欠く(というより、結果論になるかも知れないが、右D構成要件は、ガセット工法が採られることに対して、意識的除外と言わないまでも、これを全く意識していないことは明らかである〔ガセットにした上で折り返すことは通常考えられない〕)こと、を併せ考えれば、その余の点につき審求するまでもなく、控訴人らの主張は理由がない。

甲第一三号証の拒絶理由の襞に関する部分は、右襞を付けることによって、本件発明の折返工程を省いた点にまで、視点を及ぼしたものかどうかは明確でないので、直ちに採用できない。

第三  争点3〔損害賠償・不当利得返還請求の成否及びその額〕について

一  第一、二に判断したとおり、被控訴人のイ号物件の実施は認められず、ロ号方法は本件発明に属せず、ハ号物件の製造・販売のみが本件特許権の侵害となるものである。しかして被控訴人は、この点につき過失があったものと認められる(被控訴人の主張3は理由がない)から、これにより特許権者の被った損害を賠償すべき責任がある。

ところで、控訴人らは、よって被った一審原告及び控訴人らの損害につき、特許法一〇二条一項により、それによる被控訴人の得た利益の額をもって推定すべきものと主張し、控訴人側に生じた実損害の立証を敢えてしないから、右、控訴人らの主張に基づき判断することにする。

二  本件において、被控訴人がハ号物件を製造・販売した期間及びその販売量・売上高を的確に把握しうる証拠はない。被控訴人は、ハ号方法は昭和五九年中で、同六〇年一月以降はロ号方法によったと主張し、右ハ号物件の出荷先は、福岡県「甘木ぶどう」関係他七ヶ所で、合計四七三万二〇〇〇袋に止どまるとする乙第八号証を提出する。しかしながら、少なくとも、ロ号物件でなく、ハ号物件であることは被控訴人も自認する前出被告物件(1)ないし(4)(検甲第四、五号証、同一〇号証の一ないし三、同一一、二四号証〔第一の三に引用した原判決説示部分参照〕)と原審証人大内朗の証言によると、控訴人側が右被告物件(1)ないし(4)を手に入れたのは、控訴人ら主張(前掲争点に対する当事者の主張第一に引用した原判決摘示部分中その七枚目裏一一行目から八枚目表一〇行目)のとおり、同(1)は昭和六一年一〇月、同(2)は昭和六三年四月、同(3)は平成元年二月、同(4)は同年五月と認められることからしても、ハ号物件が、昭和六〇年一月以降もかなり出回っていたものと推測せざるを得ない。また、前出乙第四号証の一、二の撮影が、昭和六〇年一〇月であるから、その頃も、ハ号方法が行われていたことを疑わせるに十分である。また、前出大西証言によると昭和六〇年初頃、ロ号方法に切り替えるに際し、糊付けの方法も先の凸状の方式から、グラビア式凹ローラーに切り替えたと言うのであるが、その立証資料として提出された乙第五号証は昭和六三年一月に撮影されたものであり、真に六〇年当初からロ号方法だけにしていたならば、なぜ被告方法はロ号方法であると主張した当初の段階で、遅くとも、前記乙第四号証の一、二を撮影した昭和六〇年一〇月に同時にロ号方法を撮影提出するという効果的な防御方法を選択しなかったのか、法律上の立証責任の所在はともかくとして、いささか不自然の感を禁じえない。

三  このように、ハ号物件の販売実績が前記乙第八号証の記載のみに止どまるとすることには疑問があるところ、被控訴人は、裁判所の文書提出命令に応じないので、結局、控訴人主張の範囲内において、合理的な推定を為すほかはない。

1  控訴人らは、被控訴人は昭和五九年一〇月までは大昭化工株式会社から三角袋を購入し、転売していたが、同年一一月以後、その購入を止め、自社で製造するようになったから、従来の右大昭化工(株)からの購入量を下らないものを製造・販売している筈であると主張し、当審控訴人本人大内博の供述とこれにより成立の認められる甲第一六号証によると、昭和五二年一一月から同五九年一〇月までの各年度(一一月から翌年一〇月までを一年度とする)の大昭化工(株)から被控訴人への売上高は、昭和五二年度が一四五〇万円強、同五四年度が二〇五〇万円強、同五五年度が一七八〇万円強であるほかは、いずれも二二〇〇万円を下らないことが認められ、これに反する証拠はない。すると、昭和五九年以降において、被控訴人における三角袋の売上げも、年間二二〇〇万円を下らないであろうとする控訴人らの主張(推定)には一応の合理性があるので、その点についてはこれを採用することとする。

因みに前記被控訴人が開示した昭和五九年中のハ号物件の出荷数量に、控訴人側が前出被告物件(4)を石井果樹園から引き取ったときの単価三円(弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第六号証)を乗ずれは、一四二〇万円足らず、となって、右推定額に及ばないけれども、控訴人らが本訴請求の基礎として主張する昭和六〇年以降の三角袋の売上げには、ロ号物件も含まれるのであるから、その年間売上げの全体を二二〇〇万円と推定しても強ち不当ではないと思われる。

2  ところで、前記の通り、被控訴人におけるロ号方法への切り替え時期を確定することは困難であるが、石井果樹園が前出被告物件(3)(4)を昭和六二年に被控訴人から購入していること(弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第五号証)からすれば、被控訴人が文書提出命令に応じない本件においては、昭和六二年までは、ハ号方法を継続していたものと推定するのが相当であるが、しかし、その間全くロ号方法に手を染めなかったと推定することも相当でないので、前記三角袋全体の推定売上の二分の一がハ号物件によったものと推定する。

3  よって当裁判所は、控訴人ら主張の範囲内において、被控訴人は、昭和六〇年一月以降同六二年までの間に、少なく見積っても、約三三〇〇万円相当のハ号物件を販売したものと推定する。そして、その純利益を売上の一五%と見積もる控訴人らの主張も相当と認められるので、右販売利益は、四九五万円となる。

4  被控訴人は、本件には、特許法一〇二条三項を適用すべき旨主張するが、同項は、同条二項による場合の定めであり、本件は、同条一項によるのであるから、その主張自体失当である。

第四  結論

以上の次第であり、一審原告が本件特許権を有していたことは当事者間に争いがないから、一審原告は、被控訴人のハ号物件の製造販売により、前記控訴人が得た利益と推定できる金四九五万円の損害を被ったものと推定でき(特許法一〇二条一項)、同人は、被控訴人に対し、同額の損害賠償請求権を取得したと言うべきところ、同人は、平成二年二月四日死亡し、控訴人らにおいて右損害賠償請求権を相続承継したものである(相続につき争いがない)から、控訴人らは、各自被控訴人に対し、その相続分四分の一ずつの金一二三万七五〇〇円の請求権を取得したものということができる。よって、控訴人らの請求は、各自金一二三万七五〇〇円とこれに対する内金七五万円(原審請求分三〇〇万円に対する相続分)については昭和六〇年八月四日(訴状送達の翌日)から、内金四八万七五〇〇円(当審第一回拡張請求分の内金一九五万円に対する相続分)に対する平成五年一月一四日(同請求準備書面到達の翌日)から、それぞれ支払済みに至るまで、年五分の法定遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は理由がないものとして棄却すべきである。

よって、原判決中一審原告の損害賠償請求を棄却した部分は不当であるから、民訴法三八六条によりこれを取り消して(原判決中その余の部分の請求は、取り下げにより終了した)、当審での請求拡張分を含め、右の限度で控訴人らの請求を認容すべく、訴訟費用、仮執行につき同法九六条、九八条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮久郎 裁判官 山﨑杲 裁判官 塩月秀平)

イ号物件目録

左記工程順の方法(イ号方法)によって製造される三角袋。

第一工程-別紙第1図面に示すように、上側原紙より巾広の下側原紙上に、糊付条線を形成する糊付工程。

第二工程-別紙第2図面に示すように、糊付条線が形成された下側原紙の上に、上側原紙を接着する接着工程。

第三工程-別紙第3図面に示すように、下側原紙の両側を折り返して上側原紙の両側に重ね合わせて接着する折り返し接着工程。

第四工程-別紙第4図面に示すように、接着部のaと、aとの間に、三箇所の接続部を残して切れ目を入れる中割工程。

第五工程-別紙第4図面のb部分を切断し、別紙第5図面に示すようにする裁断工程。

第1図

〈省略〉

第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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略図面

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